山地 保(FBC TOKYO)さんインタビュー デザイナーにとって大切なこと

繊研新聞社入社後、販売部 総合企画室 営業部にてファッションビジネスの経験を積む。
1999年 国内最大のファッション合同展「IFF」立上げ事務局長 に就任。
2000年 第一回IFFを東京ビッグサイトにて開催。
2002年 IFF内に若手デザイナーゾーン「クリエーターズ・ビレッジ」を新設。
2006年 中規模合同展「PLUG IN」を立上げPLUG IN事務局長を兼務。
2011年 Tokyo新人デザイナーファッション大賞プロ部門(東京都主催)の審査員に就任。
(毎年10人のデザイナーを選抜し、3年間に渡り販売促進の支援を行う事業)
2013年 学校法人文化学園 内の 国際ファッション産学推進機構に着任。
2015年 Tokyo新人デザイナーファッション大賞事務局入り
2017年 Tokyo新人デザイナーファッション大賞事務局長に就任。
選抜されたデザイナー30人の相談やアドバイスなどを行い、ビジネスマインド醸成のための支援を行った。
2022年 Fashion Designers Accelerator Tokyo(東京都事業)総合アドバイザーに就任。
FBC TOKYO を開業し、コーディネート&コンサル活動をスタートする。
2024年 (一社)日本アパレル・ファッション産業協会 PLATFORM アドバイザーに就任。


2002年、IFF内の若手デザイナーゾーン「クリエーターズ・ビレッジ」の設立から始まった若手デザイナーの支援活動。これまで様々な事業や役職を通じて、ファッション業界の活性化に貢献してきた山地さんに、これまでの経験談を踏まえクリエイターやデザイナーのビジネスにとって大切なことは何か伺いました。

―― 山地さんのこれまでの経験の中で、クリエイターやデザイナーとって大切なこととは。

やっぱり、クリエイティビティとかオリジナリティというのはすごく大事ですね。さらに「常に進化することが重要だ」ということを伝えたいですね。中章(なかあきら)さんというデザイナーが「デザイナーはクリエイションも含め全てにおいて進化し続けなければいけない」とおっしゃっていて、私も全くその通りだと考えています。

素敵な服やかっこいい服を作っても、どっかにありそうな服だったら新しくつくる必要ないかもしれないじゃないですか。少ししか作れないとコストが高くなってしまいます。そうなると、「確かに素敵だけど、似たようなものがこっちにもあって、しかもこっちの方が安いじゃん」ってなったら、存在意義がなくなっちゃうんです。だからオリジナリティがあってさらに進化し続けることが大切なんです。

私がこれまでサポートしてきたデザイナーでも、何シーズンか経って、「なんか前とあんまり変わんないな」っていう時はダメ出しをしますね。クリエイティビティは私が口を出すことじゃないと思うので、言い方には注意しますが。

また、クリエイティビティが認められたら、必ずしも成功して、更に続けられるかっていうと残念ながらそんなことはなくて、進化し続けなければ継続はできません。毎年、日本中の服飾系専門学校から、あるいは企業やメゾンを経て、あるいは独学で大勢のデザイナーがデビューするんですよ。だから、残念ながらみんながハッピーにはなれなくって、1シーズンか2シーズンで消えてくブランドもあるし 、5、6年で消えてくブランドもあるんで、それはもうしょうがないことだと思います。

個人的には、私が関わった人にはできるだけ続けてほしいなというのありますけど。

―― その中でも生き残るためには何が大切ですか?

以前、文部科学省の委託事業で「求められる人材像としてファッション業界は何を望んでいるのだろう」というテーマで広くアンケートをとったことがあるんです。

その時に一番求められていたことは、「クリエイティビティ」とか「営業力」でもなく、「語学力」でもなく、やっぱり「コミュニケーション能力」だって言うんですよ。

人と会話ができて、友達以外の人とも話ができて、遊び以外の話も理論的にできて、そういう才能があるかないかで、全然結果が違ってくるんだと思います。

昔は、「生意気でもうまくいく」みたいな時代があって、ツッパっていてクリエイティビティがあると周りが応援してくれちゃって、気がついたら「まぁまぁ売れてる」みたいなことはあったかもしれないですけど、今の時代は「サステナブル」とか「ナチュラル」とか「ジェンダーレス」とか、そういう言葉で世の中が動いているじゃないですか。だから「何か社会のことを考える」いわゆる「社会性」が評価される時代になってきていますよね。仮にすごく個性的なデザインをしていても、そういった「社会性の要素」が認められなければ、「成功」することは厳しい時代にあると思います。
「人柄」や「人徳」のような要素も重用になってきている印象がありますね。

―― では、コミュニケーション能力とか社会性を身につけるにはどうしたら良いのでしょうか?

やっぱりね、若いうちから「ちゃんとした大人と話す機会」があるかどうかで、随分違うと思うんですよね。

台東区にデザイナーズビレッジっていうのがあって、そこには入居審査があって、選ばれると3年間、安価にアトリエを提供してもらえるんです。そこで「インキュベーションマネージャー」っていう役割の人と相談しながら勉強して、成長していくんですが、やっぱり物づくりだけに集中し続ける人は、怒られるらしいんですよ。「外に出かけろ」と。

自分が作ったアクセサリーでも服でもいいので、身につけて外に出て、人と話をしろと。人と話をするっていうのはすごく重要。

特に学生に言いたいのは、自分に興味がないことでも、いろんな知識を身に着けるべき。学生のうちは、どうしても狭いところに入り込んでしまう人が多い。それはそれで「マニアックですげー」と思うこともあるんですけど、社会に出て仕事をする上で、自分に興味がないことでも知らなきゃうまくいかなかったり、新しいアイデアを生み出すときに、いろんな知識が整理されていないとね。

成功しているデザイナーは、娯楽作品ではない「文化的な映画」をよく見ていたりしますよね。それから、あまり興味がなくても話題の美術展に行ったり、自然に接したり、美味しいものを食べたりして、いろんな体験を大切にしていますね。

あとは、よく「建築」の話も出てきますね。みんな通る道かもしれませんが、バウハウスの話はよく聞きますね。バウハウスっていうのは、ドイツの建築に始まる芸術運動の名前で、「芸術性を保ちながらも、量産に適したものを作る」という側面があります。

―― 興味のあることだけではなく、様々な文化にふれることが大切なんですね。

とにかく「いいものを見る、本物を見る」という行動は、ブランドビジネスが世間に周知されて、継続的に事業が行われていく上ではとても大事なことなんだろうなと思います。それを怠ると薄っぺらくなってしまいますよ。

海外で売りたいんだったら、日本の美術も建築も、歴史も、あるいは宗教についても最低限の知識や理解が必要でしょう。文化や芸術、歴史、そして映画や音楽、別にポップスでもいいと思います。

例えばフランスの70年代の映画のバックグラウンドミュージックのような音楽についてリサーチしたとしましょう。海外でファッションを評価してくれる人たちは、60代のショップオーナーかもしれないじゃないですか。そういった方々が「なんかこれいいなぁ」と思ってくれた時に「実はこれ、70年代の○○っていう映画の音楽から着想を得たんです♪」なんて会話ができるかもしれないですよね。

―― 文化が地域や世代を超えて繋いでくれるわけですね!

ワンピースやポケモンでもいいと思いますよ。実際に海外の若い人たちは、それを好きな人は多いですから。でもね、日本人と違って、向こうの若い人たちは一般的には服や遊びのためにお金を使えないんですよ。一般的な若い人たちはビームスやユナイテッドアローズのような価格帯のお店で服を買わないんです。日曜日に駅前のマーケットのようなところで買ったりするんで。

日本の若いデザイナーが作る服、例えばコートなんかだと10万円以上することがありますよね。それに海外での流通経費をのせて現地価格に換算すると、すごく高額になってしまいますね。だから海外で売ろうとすると、やっぱり一定のクラス以上の人たちが買いに来るようなお店で「売ってもらうこと」を考えないと。

海外には歴史的クラス社会のようなものがあって、その中でもある程度お金を使える方が、高い服を買ってくれるわけで、その人たちに買ってもらうためには、私たちが普段何を考えなきゃいけないのかってことになるんです。まぁ、難しいでけどね。

―― いろんな情報を知る必要があるのですね。

メンズデザイナーの中に、うまいグループがあるので少し紹介しますね。男性のデザイナーたちって結構つるむことが多いんです。先にパリにいって商談してるやつが「この展示会に出たいって言っているやつがいるから、出展させてやってください」みたいに後輩デザイナーを展示会やショールームの主催者に紹介するような流れ。これがまさに「ネットワーク」すなわち「コミュニケーション能力」がもたらすものですね。もちろん一人で頑張って結果を出すデザイナーも稀にいますけど、やっぱりこの「ネットワーク」と「コミュニケーション能力」が大切で、そこに秀でた人たちが、ブランドビジネスを継続できる可能性が非常に高いと思います。

―― なるほど、ネットワークを築くためのコミュニケーション能力ですね。

あと、大切なのはパートナーです。クリエイティブ以外のビジネスに関わる部分を、自分で頑張る時期はあってもいいけど、一番理想的なのは、デザイナーがクリエイティブな仕事に専念するために、それ以外のことをやってくれる「良きパートナー」を見つけることだと思います。

シンヤコズカというブランドは、セントラル・セント・マーチンズという学校を卒業し自分のブランドを立ち上げたのですが、ある時期から梶浦さんという友達が社長業をやるようになって、そこから急成長したんですね。

小塚さんは、それまで全て自分でやっていたと思うんですが、梶浦さんという人が入ってくることによって、「事業計画」「資金繰り」「営業」「生産管理」といったことを任せられるようになって、クリエイションに専念できるようになって。もちろん、すべてを任せるわけではなく、話し合いをしながら進めていく中で、ぶつかることもあったと思いますが、結果として大きく成長しているので、あのブランドにとって良い出会いだったんだろうなと思います。

ですから、デザイナーには、「自分が持っていない能力を持っている友達と仲良くしろ」って話しています。デザイナーが二人で起業しても相乗効果には限界があるじゃないですか。

―― 自分の能力以外の部分を補ってくれるビジネスパートナーですね。

学生には「学校の友達とばっかり遊んでるな」と言います。他の大学の経営学部のやつとかと仲良くなった方が将来のためになる可能性があるじゃないですか。学生には外に出て、普段会わない人と仲良くするように。できれば、自分にはない能力を持っている人が理想ですね。デザイナーもアトリエに籠もって作業しているだけではダメで、自分のブランドの存在を気付いてもらえるように、積極的に活動することが大切ですね。

―― 外に出て自分自身をアピールすることでチャンスを掴むのですね

KIDILLというブランドの末安さんは、パリでショーを開催するまでになっていますが、実は、福岡の美容専門学校出身なんですよ。彼は、卒業してからヘア&メイクアップアーティストを志してロンドンの美容室で修行していたんですが、彼はファッションも好きで、家でリメイクした服を着て、お店に出ていたようなのです。そこはファッション業界の人たちも来るようなお店だったんですよ。その服を見て「すごいね!」と言われたり、服を雑誌に紹介してもらったりして、それで自分にはそういう才能があるんだと気付いたんだそうです。

自分のものを着て、人に見てもらって、それだけでチャンスは来るわけですよ。アトリエに籠もって、ずっと作業しているだけでは、誰も存在に気づいてくれなくて、言葉が悪いけど「存在しない」と同じになってしまう。そういう意味では、これも「コミュニケーション能力」というキーワードにかかってきますよね。

―― 山地さんの活動について教えて下さい

私はいつも飲んで遊んでいるっていうイメージがあるみたいなんですけど、実は、遊んでないんです。いつもファッションやビジネスの話をしてるんですね。未来を具体的に話すのって大事ですよ。「来年の秋冬の展示会はいつやるの?」「パリにはいつ頃出ようと思ってるの?」「そのためにどうするの?」とか、そんな会話の中で、私の持っている最新情報をキャッチしてもらうんですね。あと、結構この業界って騙されることもあったりするので、デザイナーがチャレンジしようとしていることに対して、「それは、いいねぇ」とか「あれはダメだよ」などのアドバイスもします。

これまでたくさんの若手デザイナーのサポートを行ってきた中で、いろんな人がいましたよ。「大人だなっ」ていうのもいるし「何年もデザイナーやってるのに何でこんなこともわからないんだろう」っていうのもいたし。

学生やデザイナーと接していると、「彼らには何が足りていて、何が足りていないのか」「どこを伸ばしてあげたら可能性が広がるのか」というのがだいたい分かります。

業界には私みたいなおじさんが何人かいます。とにかく外に出て人が集まるところに行って、知らない人と話す努力をしてください。知らない人にでも「これどこのブランドですか?」とか「どこで買ったんですか?」という感じで話しかけるのは簡単でしょ。話しかけることがきっかけで、共通の話題が見つかったりして次第に盛り上がってくる。結果にいろんな「ネットワーク」ができ、それが「人間力」につながっていくんじゃないかと考えています。とにかく「コミュニケーション能力」です。

――― 最後にテキスタイルマテリアルセンターについて

マテリアルセンターには、プライベートで1回、東京都の事業Fashion Designers Accelerator Tokyo の一環で十数名のデザイナーを引率しての訪問が3回あります。

多くのデザイナーがここを訪問し、過去に作られた全国の産地の生地を見ることにより、新たな着想を得てオリジナル生地を制作してきました。
その生地を使用した服で、パリのショーや商談会に臨んでいるブランドもたくさんあります。
また、新たな着想をどうやってカタチにすればよいか分からないデザイナーさんには、相談員の岩田さん(イワゼン社長)という頼もしい存在がいらっしゃいます。
事務所にも、会議室にも、マテセンを訪問した多くのデザイナーがメディアに紹介された記事などが、重なるように掲示されています。
みなさんも、いつかここにインタビュー記事を貼ってもらえるようになるかもしれませんよ。
あとマテセンを訪問する際は、予約して岩田さんがいることを確認し、資料室の見学も含め最低でも3時間ぐらい滞在できるスケジュールをお勧めします。一日中こもっているデザイナーさんもいるらしいですからね。

勉強になるお話をありがとうございました!ファッション業界に限らず、コミュニケーション能力はあらゆる場面で重要だと感じました。今後も山地さんが若手デザイナーの育成支援でご活躍されることを願っています!