ファッションデザイナー 竹島綾さんインタビュー(AYÂME(アヤーム))



AYA 
TAKESHIMA

1987年生まれ。2016年に英セントラル・セントマーチン美術大学ニットウェア科を首席卒業。2017年に自らのブランド「ayâme」を立ち上げた。在学中に、シャネル傘下のクチュール刺繍アトリエ、メゾン・ルマリエと、仏「コシェ」にて経験を積む。2021年秋冬より「AYÂME(アヤーム)」として再スタート。

着る人の個性に寄り添い、その人自身を祝福するような服をテーマとする。職人の手仕事による素材や技術と、独自のひねりやアイデアを取り入れた「モダンクラフトマンシップ」を軸に、革新的なオリジナリティーを追求しつつ、各産地で培われたものづくりの希少な技や想いを次の世代に繋いでいくことを目指している。

https://a-y-a-m-e.com/

---「AYÂME」というブランド名はどのような意味なのでしょうか?

「AYÂME(アヤーム)」は私の名前の「aya」とフランス語でスピリットを意味する「ÂME」を掛け合わせた造語です。

このスピリットというのは、さまざまに解釈していただいてよいのですが、ものづくりの職人魂であったり、Follow your spirit(自分の心に従って生きる)という意味であったり、魂が宿った服、といった感じで、私自身は考えています。

また、「アヤーム」という音の響きが “I AM”「アイアム」にも聞こえるように、「その人がその人であることを楽しむ服」という意味でもあります。そのため、ブランドが提案する人物像に向かうのではなく、年齢性別国籍等を問わず、その人の解釈で着こなせる服、着る人自身の個性、スタイルに調和する服を提案したいと思っています。

 

---「AYÂME」はどういったコンセプトなのでしょうか?

「モダンクラフトマンシップ」をコンセプトとして、実験的な素材づかいで、世代を超えて受け継がれてきた伝統的な職人技術や手仕事をコンテンポラリーな感覚と融合させて、身に纏った人がわくわくするような服作りを目指しています。

 

 ---なぜモダンクラフトマンシップを表現したいと思われたのですか?

私がセントラル・セントマーチン美術大学で卒業コレクションを作ったルーツである手仕事や、シャネルの「メゾンルマリエ」という刺繍と羽細工の老舗工房と「コシェ」で「本物」を見る機会に恵まれたことが影響していると思います。

「メゾンルマリエ」では、テキスタイルを組み合わせた刺繍などを主にデザインする部署のクリエイティブチームに所属させてもらい、1800年代から続くクラフトマンシップの技術や感覚を肌で学びました。そこでは、現在まで受け継がれた技術を、今の空気にどう落とし込むかということだったので、それが原点の1つです。

 

---卒業コレクションを作ったルーツとは?

私の祖母が作った1着の子供服のドレスをインスピレーションにしているのですが、その服は伯母から母、母から私、私から妹へと代々受け継がれてきました。旅をするように、何十年に渡って着られてきたその服がみてきた景色や、辿ってきたストーリーを想像し、服の視点になって、その服が主人公となっているイメージのコレクションを作りました。

子供服のドレスは水色のギンガムチェックだったり、淡い色で可愛らしい感じなのですが、もしそれが擬人化したキャラクターだったらと考えて、女の子の服であってもその物自体は、もしかしたら男の子かもしれないという設定で、フェミニンな素材や色を使いながら手仕事を活かしたメンズウェアに落とし込みました。


(卒業コレクションの作品)

 

 ---なぜメンズに落とし込んだのですか

レースやピンク、水色など、多くの人々の中で、可愛い、甘いといったようなイメージがあります。ですが、服の視点になってみたら、周りが勝手にそう思っているだけで、例えば、たまたまピンクの服に生まれたピンクの服自身は、ただ生まれ持った要素をありのままに持っているだけです。

そのようなことに限らないのですが、根底のテーマにあるのは、世の中の多くのことは、その時の社会の空気感や他人の目や評価に振り回され、固定概念に囚われていることが多く、それに気づかないまま生きています。そのように、無意識下で他人の価値観を物差しに判断しているかもしれない現実に対して、自分の感覚で物事を視てみたら、それは真実とは限らないのではないか、という問いかけだったりします。

自分の中にある常識を取っ払った先にある気づきを得て、価値観を超えて自由になっていくことや、すべては自分次第で、考え方一つ変えればまた別の世界がみえてくる。そして、その視点や受け取り方は、人それぞれ違っていい。

そんな概念を服に落とし込んだときに、子供服のドレスを擬人化したら男の子かもしれない、という形でメンズウエアでの表現になりました。私はいつも直感的に作るので、製作過程では、ただなんとなくの感覚に従って作っただけなのですが、その感覚を後から自分の言葉で解釈すると、このような感じです。

 

---現代の技術と昔ながらの技法をどのように掛け合わせているのでしょうか?

「質感」、「色」、「柄使い」と「服の造形」のバランスの中に、今を吹き込むというか・・・これも直感ですが、「今の空気感」をちょっと取り入れたような、「新しさを感じるもの」を落とし込んでデザインしていく感じです。

---これまで、どのような生地をつくったのですか?

前シーズンは、マテリアルセンターの岩田さんと一緒に、ジャカード織物のオリジナル生地を作らせていただきました。

ションヘル織機という世界でも大変希少なヴィンテージ機で、低速回転でじっくり丁寧に手間を掛けて織り上げられているため、通常の高速織機には出すことのできない、繊細で柔らかな手触りの風合いに仕上がっています。

ギンガムチェックに花柄を重ねて織り上げた後に、起毛加工を施しているため、ふっくらとした質感で、花柄がぼんやりと浮かび上がっているのが特徴です。糸染めからオリジナルで作ったのはその時が初めてでしたが、イメージ通りに仕上げていただき、感動しました。


(左:織り上げている工程 右:服に仕上げたルック)

 

---ブランドを立ち上げられるまでの経緯を教えてください

大学を卒業してから服飾雑貨の輸入商社に就職しましたが、将来的に独立してクリエイティブな仕事がしたいという想いがあったので、その力をつけるために退職し、留学。

セントマーチンズでは、ファッションデザイン学部の中でもニットウェアを専攻しました。理由は、1本の糸から服になるまでを一番自由自在にできるという可能性や面白さがあると思ったからです。6年近くを海外で過ごした後、帰国してブランドを立ち上げました。

 

---ブランドを始めてから、出だしはどうでしたか?

右も左も分からず、とにかくやりながら覚えるという感じで、全てを手探りの中始めた感じです。帰国してから、最初はバイヤーさんに向けてではなく、流れを理解するためのコレクションを1回作ってみて、その時は特に売ることは考えずに作ったのですが、それを繊研新聞の方が記事に取り上げてくださいました。

それを見た新宿伊勢丹のバイヤーさんやセールスエージェントの方から連絡をいただき、それをきっかけとして少しずつ広がったり、製造面に関してもツテが全くない中からのスタートでしたが、不思議な繋がりと運が重なって今に至ります。

(繊研新聞)

セントマーチンズでの卒業コレクションも、海外の雑誌で著名なフォトグラファーが撮影したページに運よく掲載され、それを見た日本のスタイリストさんやエディターの方が連絡をくださり、それでお仕事に繋がったケースもありました。

とても不思議なのですが、ロンドンやパリにいる頃から、自分がつくった作品が、その時々に必要な縁を導いてくれるんです。私はただ黙々と作っているだけで、社交的でもなく発信を怠りがちなのですが・・・(笑) 幸運をもたらしてくれる服たちに感謝です。


(卒業コレクションが掲載された海外誌 Re-edition magazine)

 

---マテリアルセンターとの出会いはどういったきっかけでしたか?

ファッションデザインセンターという一宮のFDCの方々が協業するデザイナーを探していて、それに応募して選人されたのが2年位前でした。マテリアルセンターという場所があるということは知っていたので、行ってみたいなと思っていたタイミングで、ちょうどFDCの方からご紹介いただきました。今は主に毎シーズンの立ち上がりや、リサーチに利用させていただいています。

 

---ジャケットやパンツを作ろうと思ってテキスタイルをイメージしていくのか、出来上がったテキスタイルから洋服やファッションを考えられているのですか?

デザイナーによってそれぞれだと思うのですが、私は生地を見て、生地ありきでそれをどういう形にするかイメージします。

料理で例えると、まず野菜を揃えてから何を作ろうかなという風に、これをメインにしたらサイドディッシュにする素材は何にするかっていう流れ。コレクション全体としてのバランスを見て、素材の組み合わせを加味しながら選定を行ないます。

 

---竹島さんの今後の目標やビジョンはありますか?

時代が変わっても継続してものづくりを続けていく事と、柔軟な形で常に新しく変化し、進化しつづけていたいです。

ポジティブなエネルギー溢れる新しいクリエイションを続けると同時に、購入してくださる方、製造や販売、あらゆる方面でアヤームに関わってくださるすべての方々に、誇りに思っていただけるブランドになれたらと思います。

 

---マテリアルセンターの良いところを教えて頂いても良いですか?

山田さんと岩田さんお二人の人柄と、毎回新しい発見のある、膨大な量の資料を見ることができることです。

 

---これからファッション業界を目指す方へのメッセージはありますか?

自分のやり方を見つける事が大事だと思います。デザインに関しても運営に関しても既成概念にとらわれず、独自の道を追求できたら、私もそれが目標です。



(装苑2021年11月号)



(SWEET 2021年12月号)