横井春奈さん インタビュー

2021年7月からスタートしたマテセン・スクール。
マテセン・スクール とは、尾州産地の繊維関係の企業で働く若手従業員や、産地企業に就職を志す学生など、産地で活躍したい方を対象に、テキスタイルデザイナーの育成を図るための企画です。

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マテセン・スクール【3】始動!!

成果発表:第3回マテセン・スクール/第1回マテセン ラボ

今回はスクールに参加した横井春奈さん(小塚毛織株式会社)にお話を伺いました。

大学での制作を通して”もの”の尊さを知り、製品の裏側にある人々の努力を実感するようになった横井さん。大学で学んだ「ものを作る」という経験を生かして自分も何かを作る職、もしくはそれらを「企画する職に就きたいと考えて尾州に来られたそうです。

――― 大学ではどのようなことを学びましたか?

女子美術大学の工芸専攻では、手でものを作ることを重視した教育を受けました。染色についても、植物染料や日本刺繍、陶芸、ガラスなど、さまざまな分野を学びました。その中で、私は織物を選びました。糸の組み合わせから生まれる布の無限性を感じて、少しの変化で全体が大きく変わったり、工夫次第でより良いものが作れることに大きな魅力を感じたからです。

就職活動では、より手仕事に近いものづくりをしたいと考えて、企業を探していました。その時、SNSで足立さんのタキオリの動画を見つけたんです。その動画がとても印象的で、興味が湧いたので、小塚毛織に直接連絡して、「見学をさせてください!」とお願いしました。そして、尾州に来たのは4年生の冬のことでした。

見学した際に「ここで働かせてください!」と頼んだのですが、その時ちょうど新卒の方を2人採用することが決まっていて、「今年は締め切っちゃったからごめんね」と断られてしまいました。残念でしたが、やっぱり、ここで、ものづくりやテキスタイルに関わる仕事がしたいという気持ちは変わりませんでした。

――― 採用を断られたのに、尾州に来たんですか?

この土地でしか得られない情報や企業の動向があると感じていたので、卒業後に実家の香川で運転免許だけ取得してから、6月には単身で尾州に引っ越してきました。しかし、周辺で現場仕事を探してもなかなか見つからず、別のアルバイトをしながら何とか生活をしていました。

その活動の中で、葛利毛織さんに訪問した時にも、「今は社員は募集していない」ということで断られたのですが、社長さんがとても親切で、近隣の企業の情報をまとめてくださり、仕事内容や連絡先を教えていただきました。その情報を元にいろいろと調べながら、自分に合った企業を探し続けました。

――― 結果的には小塚毛織さんに入社できたんですよね?

はい。引っ越した後、小塚毛織の社長にも尾州に引っ越して来たことを連絡をしました。その際「一回遊びに来ませんか?」というお誘いをいただき、会社の方にお邪魔させていただきました。そして、7月くらいに「アルバイトどうですか?」とメールをいただきました。実は、会社にいらっしゃった社員さんが病気になられたとのことで、その方が少しお勤めの時間を減らすことになったそうです。そこからアルバイトで働くことになりました。

――― 念願が叶ってよかったですね

足立さんには、初日から、出機さんに連れて行ってもらって、ションヘル織機の使い方についてのレクチャーを受けさせていただきました。

今は、現場での実務と同時に、企画やデザインについても一緒に教えてもらえるようになりました。そして、徐々に学生さんとのコラボによる生地開発も任せていただけるようになってきました。文化服装学院のテキスタイル科の生徒さんが考えたファッションショー用のデザインを送ってもらい、それに合わせて糸を発注して織るという仕事を行っています。

学生さんたちが考える生地は、普通のアパレルさんよりも斬新で、色使いが派手だったり、ぶっ飛んだアイディアが多いです。なので、アパレルさんの依頼に比べて、より大胆なデザインが求められます。そのような生地がションヘル織機で織れるかを考えるのがとても楽しいですし、自分の想像力を駆使しながら挑戦できることがやりがいに繋がっています。

今、なんとなくションヘル織機の動かし方は分かってきたのですが、これから重要なのはデザイン力、色を見る力、糸に対する知識や経験、そしてお客様が望んでいるものを察する力だと思います。私自身、その部分がまだ足りないと感じていますので、いろんな経験を積んで、少しでも足立さんの持っている能力に近づきたいと思っています。

――― マテセンを知ったのはいつですか?

尾州に来てからも、その存在を知らなかったんですが、社長から「マテセン・スクールというテキスタイルの勉強会の募集があるので、参加しますか?」と聞かれました。それを聞いて、ぜひ参加させてくださいとお返事しました。その時にマテリアルセンターに初めて来ました。

――― マテセン・スクールはどうでしたか?

マテセン・スクールでの学びの最後に実際に生地を作るのですが、今回、テーマを「斜めのチェック柄の生地」にしました。チェックって一般的には縦と横のラインで構成されることが多いんですよね。でも、私はそれを崩してみたくて、いつか三角のチェックを作りたいと考えていたんです。マテセンの岩田さんがジャガード織機を主に使っていると聞いて、一般的なドビー織機では表現できないような細かい柄が織れることを知ってたので「今だ!」と思い、相談しました。

私の勘違いもあり、斜めの線の表現はとても難しかったようです。岩田さんには「ワンリピートで最大のひし形をデザインするのはアンタしかおらん、半分でいいやん」と言われましたが、自分の思い描いたとおりにやりたかったので一歩も引きませんでした。そして、岩田さんと試行錯誤して何とか完成させていただくことができました。そして出来上がったのはこの生地です。

マテセン・スクールが終わってから、リテールさんで生地の販売会がありました。そこで、自分のデザインを出品してみたんです。自分の作りたいものを100%で作ったので、果たしてそれが通用するのか、お客さんの反応が気になっていました。世間的に需要があるのかどうか、売れなかったらどうしようと不安もありました。

結果的には、数百点ある生地の中で、一番最初に売れたのがなんと私の作った生地だったんです!そのイベント期間中では、3人の方がこの生地を購入してくださり、その後会社でも売れました。とても嬉しかったですし、自分のデザインが受け入れられたことに感動しました。

――― 人が求めるデザインのセンスがあるんですね!

マテセン・スクールでは多くの人の手を経て物を作る難しさを改めて感じました。その中で、コミュニケーションの大切さや協力が必要だと感じましたし、これからもこれらを意識しながら制作に取り組んでいきたいと思っています。

マテセン・スクールで発表する横井さん

――― デザイン力を高めるためは?

結局のところ、実際にやってみるしかないと思っています。足立さんのそばで様々なことを見たり、自分で手を動かしたりして、「これは違ったな」と感じる経験を重ねていくことが必要だと感じています。今回のように、作ったものをお客様に見てもらい、その反応を見て勉強することも大切だと思います。

――― 足立さんからのアドバイスも影響しているようですね。

そうですね、足立さんからは「いろんなものを見なさい」とよく言われます。いろんな展示会に行ったり、他の産地を見学したりして、視野を広げていきたいと思っています。

――― 横井さん情熱を注げる理由は何ですか?

そうですね、私は地元で働いている職人さんたち、たとえば足立さんや岩田さんのような方々も尊敬しています。ファッション業界に関わってきた中で、私の普段着ているものがいろんな人の手を介して作られていることを知って、衝撃を受けました。それを他の人たちにも伝えたいと思いますし、自分もその作り手の側でいつづけたいです。その「作り手への憧れが強い」ということが、私の情熱につながっているのだと思います。

工場見学の様子
母校の学生さんを案内する横井さん

――― 将来のビジョンは?

私は女子美術大学の出身で、女の子しかいなかったんですけど、そこでの自由で明るい雰囲気がとても良かったんです。なので、この地域に、遊び心を持ちながら、ものづくりが好きな若い人たちがもっと集まって来て活躍できる場所ができればいいなと思っています。美大を卒業しても、実際にものづくりの仕事に就ける人は少ないと感じています。だからこそ、そういった人たちが目指すことのできる憧れの産地が増えればいいなと思っています。

産地ごとにはそれぞれの特色があって、そこでしかできない加工や技術があります。だからこそ、その特徴を活かして、将来的には新しい人がどんどん入ってきて、新しいものが生まれていくような継続的なサイクルができれば良いと考えています。

作り手側が「いいな」と思ってもらうためには、足立さんのようなユニークなものづくりが世界から認められることが大切だと思います。私はその足立さんのものづくり精神をずっと引き継いでいきたいと強く思っています。その活動の中で、仲間を増やしていくことも取り組んでいきたいです。最近は、ご飯会やスイカ割りとかやったりしてるんですけど、若い人たちが楽しめるイベント等に積極的に参加したいと考えています。また、熟練の職人さんともつながる機会などを作りたいと思っているんです。人が集まるためには、やっぱり魅力的なものが必要です。だから、面白いものを作り続けていけるように、しっかり経験を積み重ねていきたいと思っています。

お話をお聞かせいただき、ありがとうございます。横井さんが中心となって、尾州の若手コミュニティが活性されることを期待しています。今後も引き続き頑張ってください!